研究
研究室のミッションと研究テーマ、使っている技術、研究の進め方を紹介しています。
観光地経営とDX
ミッション
観光振興と観光地域づくりに関わる政策・計画・ビジネスの判断に、根拠となる知見を提示します。そのために、地理学、都市・地域計画、空間情報学のアプローチを基礎に、現地でのフィールドワークや資料調査から、人流ビッグデータの空間解析、機械学習、自然言語処理までを組み合わせて地域と人々の動態を解明し、デジタル技術が観光の経営や制度にもたらす変化もあわせて検討します。
研究テーマ

観光地域の動きを測るMeasuring Destinations
観光地はどのように発展し、あるいは衰退するのか。来訪者はどこから来て、地域の中をどう動くのか。これらは長く聞き取りや調査票で追われてきましたが、携帯電話の位置情報データと空間解析を使えば、全国の観光地を同じ物差しで測れます。誘致圏、回遊、滞在、イベントの来訪効果を測る方法そのものを作り、観光資源や観光産業の分布と重ねて、観光地域の構造を読み解きます。
- 観光動態
- 商圏・誘致圏
- 回遊・周遊行動
- 消費動向
- イベント来訪効果
- 観光モビリティ
- 需要予測
- 産業集積
- 観光計画

観光地経営の判断を支えるDecision Support for Destinations
自治体やDMOは、限られた予算で施策を選び、その効果を説明しなければなりません。どの層が来ているのか、施策の前後で何が変わったのか、来訪の集中をどう緩めるのか。こうした問いに答えるには、観光統計と位置情報を組み合わせて地域の状態を測り、担当者が自分で確かめられる形にする必要があります。分析を地図とダッシュボードにし、計画や評価の場で使いながら、何が判断を変えるのかを検証しています。データを使った判断が根づくかどうかは、技術よりも組織や制度の側で決まります。誰がデータを持ち、誰が読み、どの会議で使うのか。観光DXやAIの導入がどこで止まるのかを、人材と体制の面からも検討しています。
- 観光統計
- 経済効果
- インパクト測定
- 観光資源評価
- インバウンド対応
- オーバーツーリズム対策
- 観光DX
- データプラットフォーム

顧客の体験を読み、届けるReading and Delivering Experience
宿泊施設や観光施設には、口コミ、予約、来訪の記録がすでに溜まっています。これらを分析すれば、何が満足を生み、何が不満につながるかを施設別・地域別に比べられます。一方で、地域の魅力が伝わる経路も変わりました。旅行者はSNSや口コミサイトで情報を集め、体験した内容を自ら発信します。デジタルメディアやWebを通じて情報をどう届けるかと、届いた反応をどう読み取るかの両方を、研究の対象にしています。予約や案内の仕組みがデジタルに置き換わるなかで、集まった顧客の情報を体験の設計にどう返すかも検討しています。
- 宿泊レビュー分析
- SNS・UGC
- 顧客満足
- 体験経済価値
- 観光情報の発信
- デジタルマーケティング
- スマートツーリズム
- デジタル体験の設計
使う技術
上のテーマを解くために、次の3つの技術を使います。技術そのものを作ることも研究の対象にしています。

ビッグデータと空間分析Big Data & Geospatial Analysis
位置情報、地域統計、環境や産業のデータなど、性質の異なる空間データを結合して扱える形に整えます。集計の単位や時間の区切り方によって結果が変わるため、推定の妥当性を確かめる手続きまで含めて方法として組み立てます。機械学習を空間の推定に組み込む GeoAI にも取り組んでいます。
- 人流ビッグデータ
- GIS
- 時空間分析
- 統計解析
- 機械学習
- GeoAI
- ビジュアリゼーション

デジタルメディアとアプリケーション開発Digital Media & Applied Systems
360度画像や3Dモデル、生成AIによる解説を組み合わせ、場所の情報を体験として届ける方法を設計し、実装します。分析の結果を現場の担当者が自分で操作できるダッシュボードや、目的地の推薦、案内の仕組みも研究室で作り、利用のログをもとに改良します。今後は、現地での移動や見学と連動する案内へ広げていく予定です。
- 360度
- 3Dモデル
- バーチャルツアー
- Webアプリ
- ダッシュボード
- 診断・推薦エンジン
- チャットボット

テクノロジー・AI活用Tourism Technologies & AI Application
テキストや画像や表形式を含む多様なデータを組み合わせ、観光の実態を捉える方法を検証しています。大規模言語モデルによる分類や要約、調査・分析の手順の一部をAIに任せる試みを進め、精度と限界、規約や倫理の制約を含めて評価します。観光DXを制度と運用にどう落とすかも、ここで扱います。
- LLM
- VLM
- マルチモーダル
- 感情分析
- テキストマイニング
- 画像解析
- 生成AI
- AIエージェント
規模別に提供する成果
同じ分析でも、判断する主体の規模によって、必要とされる形は異なります。これまでに出してきた成果を整理すると次のようになります。
| 国・都道府県(広域) | 市町村・DMO(地域) | 施設・事業者(個別) | |
|---|---|---|---|
| 観光地域の動きを測る | 地域間の観光流動と、全国のなかでの位置づけ | 来訪者の居住地構成、回遊経路、誘致圏の範囲 | 商圏の推計と、来訪の季節・曜日変動 |
| 観光地経営の判断を支える | 広域の観光統計の補完と、政策の効果検証 | 施策・イベントの来訪効果の測定、ダッシュボードによる観測 | 来訪の集中の緩和と、受け入れ体制の検討材料 |
| 顧客の体験を読み、届ける | 観光情報の発信手法の検証 | 地域資源の3D記録と、目的地・ルートの推薦 | 口コミ分析による満足・不満の構造と改善点 |
研究の進め方
どのテーマでも、次の4つの段階を行き来しながら研究を進めています。
- 1観る
現地調査や聞き取り、資料の収集を行います。空間の使われ方や施設の運営には、データだけでは捉えられない部分があるためです。
- 2測る
位置情報、口コミ、統計、調査票のデータを分析します。測る方法そのものを設計し、結果の精度と限界も示します。
- 3つくる
分析の結果を、地図、ダッシュボード、バーチャルツアー、推薦の仕組みなどにします。実際に使える形にするところまでを研究の範囲としています。
- 4試す
自治体や施設、学生と一緒に使い、評価します。何が判断や行動を変えたのかを確かめ、次の研究に生かします。
研究アプローチ例(教員の個人研究より)
参考情報として個人研究の事例を一部紹介します。

人流ビッグデータによる観光動態や集客圏の分析
Point先端科学ツールとビッグデータ解析による新たな知識発見と価値創造
GPS(Global Positioning System)ログ、位置情報付きSNSデータ、ダイアリーデータなど、観光行動を表す人流ビッグデータの応用研究を積極的に進めています。地理情報システム(GIS: Geographic Information System)による視覚化技術や、データサイエンスのアプローチを組み合わせることで、多様な分析が可能となり、新たな知識発見や価値創造につながると考えています。新しい解析手法の検討、現象分析への活用、地域計画・マネジメント業務への導入について、研究しています。これまで、特定の観光地から日本全国にいたるまで、狭域から広域のスケールにおける研究蓄積があります。最近では、観光地誘致圏の探索的分析のためのフレームワークやアルゴリズムの開発を研究しています。
参考:
・Sugimoto et al.(2019)Visitor mobility and spatial structure in a local urban tourism destination: GPS tracking and network analysis, Sustainability, 11(3) 919.
・杉本興運(2024)人流データを活用した観光地誘致圏の時空間的変化の分析ー箱根町を事例としたCOVID-19発生前後年における比較ー. 都市計画学会論文集59(2), p.158-167.

観光・余暇に関わる産業集積の空間分析や地域潜在力の評価
Pointミクロな時空間データを活用した新たな地域観光統計指標の開発
地理空間情報技術の進展や社会への浸透により、地域に関するあらゆるデータが入手可能になりました。その中には、集客施設や飲食店などの建物の位置を示すミクロな空間データの集合も含まれます。こうしたマイクロジオデータを使い、新たな地域観光統計指標の開発に取り組んでいます。それと同時に、産業集積や地域潜在力の測定への活用可能性について検討しています。最近は、時空間分析により、飲食業・娯楽業からみた地域の夜間経済特性を把握することへの応用研究を進めています。
参考:
・杉本興運ほか(2020)飲食店の集積と営業時間からみた商業地特性の分析:夜間の新宿、銀座、渋谷の比較, 地理空間,12(3),227-245.
・杉本興運(2023)イベントの時空間分布からみたライブエンタテイメントの全国的動向:音楽・ステージ系イベントの地域的特性と夜間経済との関係, 観光研究34(2), p.29-47.

立体空間情報やAI技術を統合したバーチャル観光体験の創出
Point先端技術による観光資源の情報発信と価値伝達
360度画像、3Dモデル、生成AI技術等を統合した観光資源のバーチャルツアーシステムの開発と運用を実践しています。観光資源を遠隔地から体感できるデジタル体験環境の構築とユーザへの印象評価を探究しています。開発したシステムは大学キャンパスの公式バーチャルツアーとして実装され、オープンキャンパスや新入生支援に活用されるとともに、観光DXやSTEAM教育の実践教材としても展開しています。ストリートビュー機能、案内チャットボット、都市3Dモデル連携など、複数の先端技術を組み合わせることで、従来の静的な情報発信を超えた、インタラクティブで没入感のある観光情報発信の可能性を実証しています。
参考:
・東洋大学HP,「[白山キャンパスバーチャルツアー、進化した第二版を公開](https://www.toyo.ac.jp/news/20251128-18660.html)」
・東洋大学HP,「[白山キャンパスのバーチャルツアーを公開](https://www.toyo.ac.jp/news/20250818-17954.html)」

観光現象の地域的展開や都市・地域の観光発展プロセスの理解
Pointフィールドワークによる国内外での地域調査、観光が地域へもたらすインパクトの深い理解
日本や外国の都市・地域を対象に、フィールドワークによる地域調査や文献資料などの分析を行い、観光現象の地域的展開や地域の観光発展プロセスを解明する研究を行っています。時と共に観光や地域は変化していきます。過去から現在までの地域戦略の歴史などを読み解き、観光による地域発展のプロセスを明らかにし、今後の地域戦略への活用を志向するとともに、観光によるインパクトの評価につなげていくことを目指しています。様々なデータをパズルのように組み合わせる思考作業は大変ではありますが、楽しさも感じられます。今まで、東京、シンガポール、ベルギーといった地域で調査を行ってきました。
参考:
・杉本興運ほか(2016-2020)都市観光地における観光地マネジメントの課題解決と再構築に向けた地域・観光動態研究. 東京大学空間情報科学研究センター CSIS共同研究
・杉本興運(2017)シンガポールにおける観光とMICEの発展, E-journalGEO,12(2) 246-260.